デンキ屋が20年前に語りたかったゲームセンターの話

現在電気屋の筆者がゲーム業界にいた頃の体験から語るゲームセンターとアーケードゲームの話。基本的には当時の記憶が頼りなので多少の間違いは大目に見てください。

業界を変えたゲーム達(4) 記憶に残るクレーンゲームの中のぬいぐるみ

閑話 記憶に残るぬいぐるみ

クレーンゲームの話が出たところで当時のキャラクターぬいぐるみについて少しだけ語っておこう。

今回、この話を扱うにあたって一応調べてみたのだが、意外な事に当時のぬいぐるみについての資料というものは殆ど見当たらなかった。
中古販売などで名指しで検索してやっとヒットする位で、どのようなキャラが商品化された等といった資料が出てこないのだ。

あの一大ムーブメントを巻き起こしたバンプレストですら、最新情報はあっても過去の商品ラインアップについての記述がないというのも寂しい限りだが、とにかく今回は本当に私の記憶だけがたよりというわけだ。
とは言うものの、私としても既に30年近く前の話である。
ゲーム機ならともかく、下手をすれば1回しか入荷しなかったぬいぐるみも含めて全て思い出すのは不可能だ。
なので当時人気があり記憶に残っているぬいぐるみに限ることにする。
曖昧な記憶だがそこはご容赦願いたい。

キャラクターぬいぐるみの殆どはバンプレスト製であり、ほぼ独占状態だった。
そこは多くの子供番組のスポンサーであるバンダイの子会社なのだから当然といえば当然のことだが、持っている版権は豊富ではあるものの基本的には一昔前のキャラがメインであった。
販売用として商品化するにはやや時代遅れであり、確かに景品位でしか使い道はなかったのかもしれない。

だが、これは狙ったのか偶然なのかはともかく、その頃のクレーンゲームの主な客層であった一般サラリーマン層のツボにガッチリとハマったのだ。
中でも「世界名作劇場」のキャラ、特に「フランダースの犬」のパトラッシュや「母をたずねて三千里」のアメディオ、「あらいぐまラスカル」のラスカルなど、物語を代表するマスコット達はその愛らしさとキャラの再現性から大人気であった。
対象となる年齢層も幅広く、老若男女に広く愛されたヒット商品である。

他にも「ムーミン」「ハクション大魔王」「うる星やつら」「ゲゲゲの鬼太郎」等の知名度の高さから人気のキャラも多く、買うほどではないが景品としてなら是非とも欲しい、といった絶妙なぬいぐるみが多かった。
まあ正直、ぬいぐるみとしての商品化には作品によって向き不向きがあるので必ずしもヒットしたアニメのぬいぐるみが人気となるとは限らないが、とにかくバンプレストは持っていたキャラを片っ端から商品化していた感はある。
全体に作りが少し安っぽいので目玉おやじの様なあまりにシンプルなデザインだと微妙な感じに仕上がってしまったのが残念だったがそういったキャラでもそこそこ人気があったのが不思議だったものである。

そんな中でも最も人気だったのは当時の人気アニメ「セーラームーン」シリーズであろう。
その頃は既に第二期が放送されており、知名度抜群の現役キャラである。子供達若年層は勿論、所謂“大人のお友達”も目の色を変えてプレイしていたのを覚えている。
またお父さん達にも知名度が高く、子供の為に頑張っていたのが実に微笑ましかった。

逆に、意外に不評だったのが「仮面ライダー」「ウルトラマン」「マジンガーZ」「ガッチャマン」等の正統派ヒーロー達である。

どのキャラもかわいい2等身にするには無理があったが、特に仮面ライダー1号等は目玉おやじ同様その極めてシンプルなデザインが災いし、ぬいぐるみ化する事でまるで子供の落書きの様なチープさが際立ってしまったのだ。
またウルトラマンの場合は当時既にデフォルメ化したぬいぐるみが販売されており、目新しさに欠ける上その劣化版の様な安物感が目立ってしまった。

バンプレスト以外のメーカーにも目を向けてみたいが、他にキャラの版権を持ったメーカーはほほ皆無である。セガから自社提供のアニメ「紅い光弾ジリオン」のぬいぐるみが出たらしいが残念ながら私は見る機会がなかった。
唯一大人気となったのがタイトー製の「クレヨンしんちゃん」である。

当時クレヨンしんちゃんはアニメ化されて話題にはなっていたものの、まだ大ブレイクする寸前のタイミングであった。

先にも書いたが東映アニメーション等多くのアニメ番組のスポンサーとして版権を持つバンダイの子会社であるバンプレストも、シンエイ動画作品であるクレヨンしんちゃんの版権は持っていなかった。そこに目を付けたのがタイトー、というわけである。

これはタイトーの担当者の大ファインプレーであろう。

タイトー初のキャラクター物と言う事で力が入っていたのがよく解るが、贔屓目なしに非常にクオリティーの高いぬいぐるみであった。

キャラクターの再現性が高いのは勿論の事、素材は市販のぬいぐるみで使われる様な毛皮フェルトのふわふわした材質を使用し、大きさもバンプレスト製よりも大きめに作られていた。
前回私が指摘したクレーンゲーム向けのぬいぐるみとしての条件をしっかりと考慮してあり、そこはさすがクレーンゲームのメーカーとしての面目躍如といったところだ。

残念な事に固さはそれなりにあり、重心のバランスが良すぎてバンプレスト製以上に取りやすいという点だけは残ってしまった。
だが逆にアームの設定で難易度の上がってしまったクレーンゲームにあっては久々の初心者向けアイテムということでプレイヤー達の評判も実に良かった。同じ型のしんちゃんのぬいぐるみを何個も狙っているプレイヤーもおり、ゲームとして楽しめる景品であったともいえよう。
何故か当時はそれ以降タイトー製のキャラクターぬいぐるみが出る事はなかったが、もしそのままアニメ作品等のスポンサーになりハイクオリティーな景品を出し続けていたらクレーンゲームもアニメ業界ももう少し違ったものになったかも、などと有り得ない妄想をしてみたりするのだ。
あれ程の大ブームとなりながら、皆に忘れ去られてしまった当時のキャラクターぬいぐるみ達。
誰かその歴史を掘り下げてくれるような奇特な人はいないものかと勝手ながら願うのである。