デンキ屋が20年前に語りたかったゲームセンターの話

現在電気屋の筆者がゲーム業界にいた頃の体験から語るゲームセンターとアーケードゲームの話。基本的には当時の記憶が頼りなので多少の間違いは大目に見てください。

20年前に語りたかったアーケードゲームの話(6) 名機に欠かせないゲーム音

実は名機に欠かせないゲーム音

昔熱中したゲームを思い出す時、最初に頭に思い浮かぶシーンは何であろうか。
勿論ゲーム画面、特に開始画面が多いはずであるが、その時には同時にゲーム音が頭の中に鳴り響いたはずである。

ゲームの内容自体は思い出せなくても、そのBGMは強く印象に残っているのではないだろうか。

プレイ時はゲームに集中する為、案外自機の周り以外の部分には目が行き届かないものである。
周りの背景が美しいといった、グラフィック面を見る余裕があるのはギャラリー達であり、プレイヤーにとっては何度も繰り返し見る開始画面位しかじっくり見る事はないであろう。

そんな中、絶えず繰り返し聞こえて来るゲーム音は集中しているプレイヤーの耳にも残りやすく、また盛り上がる場面でのBGMはプレイヤーの気分を高揚させるには必須のアイテムでもある。

またゲームバランス調整の効果をあげる技術として、プレイヤーを焦らせる為にBGMのテンポの変化を使って混乱させるゲームもある。

テトリス」(セガ版)は実に分かりやすい例であろう。

最初はのんびりとした曲調から始まるのだが、レベルが上がるとそれにに応じて徐々にテンポが早くなり、更にはブロックが積み上がってピンチになると途端にサイレンをイメージさせるBGMを織り込んで煽ってくるのだ。

プレイ中このBGMの変化でパニックになりそうになったプレイヤーも多い筈だ。

この手法は「マッピー」(ナムコ)等、他のゲームにもいくつか見られるが、古くは「スペースインベーダー」(タイトー)で既に確立されている。

当時はサウンドボードも無い時代、ほぼビープ音の組み合わせだけで音楽とも言えない代物だが、低音のインベーダーの足音(?)と高音の自機の発射音の対比、そして敵が減り進行速度が上がっていくのに合わせて音のテンポが早くなる様はプレイヤーを徐々に煽りながら、さながらBGMのように聞こえてしまうのは実に見事である。

まあその辺りは果たして意図したものなのか、技術的にそれしかやりようがなかったのかは定かではないが、それでもインベーダーと言えばこのサウンド、と言える程の印象深さであるのは間違いない。

この様に名機と呼べるゲームには必ずと言って良いほど印象的なゲーム音が存在する。
こう書くと大抵はBGMの方をイメージすると思うが、必ずしもそうとは限らない。先のインベーダーの例の様に音楽として確立していなくとも良いのだ。

例えば「ストリートファイターⅡ」(カプコン)にはこれといって印象深いBGMがあるわけでは無い。
では何が印象に残っているかと言えばあの『波動拳!!』の叫び声である。
要はゲームの印象を決定付ける音である事が重要なのだ。

また、攻撃が当たった時の「スパーン!!」といった打撃音も持続性に必要な爽快感を感じさせるのに非常に有効な演出なのである。

もう一つ、ゲーム音が重要な役割である事を実感した例をあげておこう。
私の担当していた店に「チェイスHQ」(タイトー)がテストマシンとして設置された時の話である。

当時、店にはタイトー製の体感ゲーム「フルスロットル」が稼働しており、その基板交換という形で設置する事となったのだが、その際どういう訳か基板の不具合で音が全く出なかった。
まだ市場に出る前のゲームだった為、当然どういう音が出るのかは誰も知らない訳だが、とにかく当面はその状態のままテストされる事となった。

チェイスHQ」は分類としてはドライブゲームではあるが、犯罪者の運転する車を追跡し、相手の車に自車を体当たりさせて逮捕するという通常とは全く逆の発想から生まれたゲームである。

ゲームの序盤は通常のドライブゲームと同じく障害を躱しながら進むのだが、後半は逆に犯人の車にガンガンぶつける爽快感がたまらない名機である。

ただ、私も設置時に音無しの状態のままテストプレイしてみたのだが、その時の印象は発想は面白いが少し地味かな、という感じだった。
テスト開始時のインカム自体も比較的好調ではあったがテストマシンとしては中の上、程度であった。

ところが数日後、再度正常な基板に交換してテストプレイを始めた時のことである。

ゲーム開始時の「ナンシーから緊急連絡!…」の声がスピーカーから流れた途端、周りのギャラリーがどよめいたのだ。

実は「チェイスHQ」の売りのひとつはこのゲーム内のキャラの会話シーンで、助手席の相棒がプレイヤーがミスをする度にクレームをつけるのである。

明るい女性のチュートリアル音声とゲーム中横でやかましく文句をつける相棒の声はドライブゲームとは思えない賑やかさで画面の変化の乏しさを補い、映画の様なストーリー性と華やかさを感じさせるのだ。

そして犯人の車を発見した際に鳴り響くサイレンが追跡から逮捕への場面転換を演出するのである。

元々の派手な動きの筐体と一風変わったゲーム内容、それをゲームサウンドが見事に盛り上げ、プレイヤーを引きつけるための最大の効果を発揮した。

その日からインカムは前日の倍以上に跳ね上がり、晴れて名機の仲間入りする事となるのである。

店舗運営において、ゲームの音量調整は意外に重要だ。特に昔のテーブルタイプが主体だった頃はスピーカーの場所があまり良くなかったので、少し大きめに設定しないとプレイヤーに聴こえ難かった。

様々なゲーム音が鳴り響く中、周りにかき消され無いようにと音量を上げ続けた結果、かなり騒々しい感じになってしまった店舗や、逆に一時期妙に音量を絞った店舗があったものだ。

私の場合は新製品は最初のうちだけ若干他より大きめの音量にして、定期的に全体の音量を少しだけ絞るといった調整をしていた。

気を付けていても店舗内でその音量に慣れすぎると、いつの間にか全体的な音量が大きくなりがちなのだ。
うるさくなり過ぎず、だがそれぞれのゲーム音が迫力に欠けることの無いように調整するのは意外に難しかった。

現在のミドルタイプの筐体はプレイヤーの正面にスピーカーがあるのでかなり音に関する状況は良くなった様だが、それでもたまに音量に無頓着な店舗もあるのは残念だ。

今は昔ほど個性的で耳に残るゲーム音が無くなった様な気もするが、また原点に戻ってシンプルでこのゲームと言えばこの音!というサウンドを聴かせてもらいたいものである。