デンキ屋が20年前に語りたかったゲームセンターの話

現在電気屋の筆者がゲーム業界にいた頃の体験から語るゲームセンターとアーケードゲームの話。基本的には当時の記憶が頼りなので多少の間違いは大目に見てください。

忘れられない名機「アルカノイド」

イメージ以上に名作が多い不思議なメーカー

当時のタイトーという会社は実に不思議なゲームメーカーだったと思う。
勿論「スペースインベーダー」を産み出した老舗でもあるし、業界内では最大手と言っても良いメーカーである。
ただ、正直ゲーマーからの評価はそれ程高くなかったのではないだろうか。
例えばグラフィックの美しさといったビジュアル面や、設定を含めた世界観、ゲームバランスの甘さなど全体的に作り込み不足な感のある作品が多い。
サウンドだけがずば抜けて良いだけに、余計他の部分の粗が目立ち中途半端な作品を作るメーカーだという印象が強いのだ。

特に当時の他メーカーはグラフィック技術が向上し、またクリエイターが充実していたのかアニメ的な世界観の表現が各段に成長していた時期でもある。そんな中でタイトーの作品は見た目という点では明らかに見劣りしていたのである。

だが、そういう見た目のイメージとは裏腹に、タイトーは数年に一度は意外な程のスマッシュヒットを飛ばしていた。それもあまり目立たないが実際はインカムが高くしかも持続性の高い作品が多いのである。
そこにタイトーのスタンスが見えてくるのだが、基本的に一般向け、しかもやや年齢層の高い人向けを意識した作品が多いメーカーなのである。
以前の回でも触れたが、マニア向けの作品はプレイ時間が長くなりがちでゲーマーの評価の割にはインカムは低い。
逆に一般向け作品は爆発的な人気はそれ程期待できない代わりに比較的持続性が高い傾向があるのだ。
一般層プレイヤーのレベルはマニア程ではないため、プレイ時間を抑えられることが大きいのだが、それ以前にそれ程熱中するわけでもなく、程よく息抜きとして楽しめる作品が一般には受け入れやすく、更にその手軽さがコインを入れやすいという状況を作っているのである。

これは実際にゲームセンターを運営するタイトーだからこその方針だ。

電車でGO!」「トップランディング」「チェイスHQ」「オペレーションウルフ」等、ヒットした作品は全てと言ってよいほど一般向けの作品ばかりである。
グラフィックこそ地味でぱっとしない印象だが、気楽にプレイ出来そうな取っ付き安さとそれまで有りそうで無かった斬新さ、更にその中に少しだけ盛り込んだマニア向けの要素等、全方向へのケアを欠かさない絶妙な上手さがあるのだ。

恐らく意図していたヒットではなかった名機「アルカノイド

そんな作品群の中でも特にタイトーらしい作品と言えるのが「アルカノイド」なのではないだろうか。
言うまでもなく昔のブロック崩しのリメイクであり、画面が現代的に美しくアレンジされ、アイテムでパワーアップができるようになった作品である。

アルカノイド」は登場と同時にちょっとしたブームを起こすほどのヒットになった。
それも爆発的な大ヒットではなく、高い売り上げをキープしながらのロングヒットを続けたのである。

だが、正直このゲームがこれほどのヒット作になるとは誰も思わなかったのではないだろうか。

確かに元々ヒットした作品だったとはいえ、見た目が変わった以外はゲーム内容的にはほぼそのままである。
追加されたアイテム自体もゲーム性を変えるほどの奇抜さがあるわけでもなく、しかも効果としては微妙なものばかりでそれ程インカムに貢献しているとは思えない。

そもそも、このゲーム自体それ程力を入れて作った様には見えないのだ。

同時期に「リターンオブインベーダー」というまさに「スペースインベーダー」のリメイク作品がリリースされており、そちらはグラフィックもアイデアもそれなりに盛り込んだ力作となっていた。

それに対して、確かにオリジナルに比べれば美しいとはいえ、グラフィック面でもサウンド的にも、またわずか13面という面数の少なさ(ブロックの組合せだけで無限のパターンを生み出せることを思えば明らかに少ない)を考えても明らかに作り込み不足であり、どうにも間に合わせた感がにじみ出ているのである。

これは一応私の想像だが、「リターンオブインベーダー」にしろ、「アルカノイド」にしろ、制作サイドというよりは営業サイドからの発案で制作されたのではないかと思う。

タイトーはゲームセンター運営の売り上げが収益の多くを占めている。

当然、営業部門の発言力は無視できないほどに大きい。
ゲームセンターのノウハウが蓄積されている強みもあってか現場の声としての説得力があるのも事実だが、それとは別に単純にインカムを求める圧が強いのだ。

営業部門の求めるものは当然ながらインカムが全てである。

ゲームの質の向上や芸術性は正直二の次であり、ゲームファンの評価等は度外視である。
まあそれは商売である以上当然であり、マニア向けに制作したところでさほどメリットがないことは確かだ。
結果、必然的にインカムの望める一般向けの作品が多くなるのも当然といえば当然の流れなのである。

そういった意見や要望の中、商売としての視点から生まれた名機は多く存在する。
とはいえ、そうそう実際に商売に繋がる画期的なアイデアが出るわけもない。

現場の意見というのはあくまでも過去の成功例や現状の市場の流れを参考にしたものでしかないからだ。
大抵は曖昧な意見ばかりであり、その中で具体的な例として出がちなのが「昔流行ったあのゲーム」ということなのである。

勿論目新しさのないデメリットはあるとしても、その完成度とゲーム性は確実でリスクは少ない。またその開発費もある程度は抑えられるというメリットもあり、良くも悪くもリメイク作品はいかにもタイトーらしいと言える。

誤解のないように言っておくが、別にタイトーがリメイクばかり作っているというわけではない。
むしろ、実験的な作品の方が数多く制作されており、「数撃ちゃ当たる」的なおおらかさを持ち合わせている事もタイトーの特徴ではあるのだ。

多くの作品に人員を分散させていることもありひとつひとつの作品に熟成が足りない事の多いのが残念ではあるのだが、それでも数ある作品郡の中でアイデア勝負の突き抜けた作品が出る事もあるのは確かなのである。

アルカノイド」がヒットした不思議

話がそれたが、「リターンオブインベーダー」が明らかに力を入れた作品だったのに比べれば、「アルカノイド」は手を抜いた感のある出来だったのは確かだ。

だが結果としては「リターンオブインベーダー」は大コケし、「アルカノイド」は大ヒットした。そこがゲーム制作の難しさでもあり、インカムの不思議ではあるのだが、何故「アルカノイド」はそれ程のヒットをしたのだろうか。

「リターンオブインベーダー」が失敗した原因ははっきりしている。
あまりに前作との違いを出そうと頑張りすぎたために「スペースインベーダー」の懐かしさを感じる部分もゲームとして優れた部分もその殆どが引き継がれなかったためだ。

キャラクターはうねうねと良く動いているものの、これまた作り込んだ背景に溶け込んでしまい画面全体が暗く見づらいものになってしまっていた。
また、コンセプト自体は「スペースインベーダー」と同じであるにも関わらず、プレイ感覚は全く別物と言っても良いものになってしまったのだ。

シンプルで特徴的な敵のデザインも、あの独特なゲーム音も再現することはなく、また制限はありながらも気持ちの良い発射感も、敵を破壊した時の一瞬動きが停まるインベーダーならではの「間」も無くなってしまったのが非常に残念であった。

更に言えば、既にシューティングゲームというジャンルが確立していた当時ではインベーダーの整列した敵を倒すという内容自体が物足りない印象があった。

前作をプレイしていた人はそのギャップにがっかりし、初めてプレイする人にはゲームとしてのインパクトが足りないという中途半端な作品となってしまったのである。

それに対して、リメイクと割り切って余計な変更をしなかった事こそが「アルカノイド」の成功した本当の理由ではないだろうかと思うのだ。

昔プレイした人にはほぼそのままの感覚でプレイできる懐かしさがあり、また初めてのプレイヤーにとっては当時のシューティングゲームやアクションゲームに比べて全く異質のプレイ感覚を味わえる斬新さを感じる事が出来たのである。

シンプルな中の操作感の重要性

また、シンプルな中での操作感が実に良く出来ていた事も大きい。

硬質感のあるブロックと原色を基調としたスッキリとした背景の中、弾の跳ねる反響音が実に気持ちよく響く。
どこかリラックスできる手軽さと同時に爽快感をプレイヤーに与えるのだ。

そして案外気が付き難いがコントローラーとして採用されたダイヤルの操作感が絶妙によく出来ていた。

前作で採用されたボリューム式のダイヤルは軽いが遊びが無く操作がシビアだったが、「アルカノイド」ではトラックボールの操作と同じ光センサーによるものだ。クルクルと回るダイヤルのわずかに感じる重量感は実に気持ち良い。

以前にも触れたゲームにとっての重要な要素のひとつであり、意外に軽視されがちなのが基本操作の快適さと爽快感だ。

シューティングゲームならば弾を撃つレスポンスの良さや敵を撃破した時の音であり、アクションゲームならば敵を攻撃する時の打感等である。
ゲーム中最も感じる機会の多い基本操作時に快感を感じられないようなゲームが売れるわけがないのだ。

名作と呼ばれるゲームは、必ずと言ってもいいほど基本操作で得られる爽快感があるものだ。当然ながら、この「アルカノイド」にもそういった快感が備わっているのである。

しかも基本的に敵の存在しない(最後にはラスボスは出てくるが)この作品ではプレイヤー自身の操作の正確さがキモであり、当然コンパネの操作に意識が集中する。
その際のコントローラーの操作感の良し悪しは快感に直結するため非常に重要なのだ。
その点、この「アルカノイド」の操作感の良さは筐体の制作も豊富な老舗のタイトーならではであり、このゲームの特徴と利点を最大限に活かしていると言えるのである。

また、先程挙げた面数の少なさも幸いしている。
ある程度上達すれば面数をクリアするのは比較的簡単な部類であり、そのバランスも一般向けで好感の持てるものだ。
普通ならどんどんプレイ時間が長くなるところであるが、このゲームでは13面をクリアすればループせずに終了となる。つまりプレイ時間の上限を設けることでインカムの低下を防いでいるのだ。
下手に攻略を複雑化せず、長すぎず短すぎない、クリアで終了しても納得できる絶妙な面数だったと言えるのだ。そう考えれば、パズル的要素から考えれば少ないと思われる面数であったのは意図したものだったのかもしれない。

恐らく偶然から生まれた奇をてらわない究極のバランスと完成度

正直なところ、私はこのヒット自体は偶然が重なった結果の奇跡の産物だと思っている。

旧作のリメイクは安易な二番煎じとなりがちで、変に力が入ると旧作の良さを壊してしまい逆効果になることが非常に多い。

逆に余計な付け足しは最小限に留めて、旧作の個性や良さを損なわないように操作感の良さや難易度の設定、プレイ時間の調整を取ることは至難の技である。

それこそゲームデザイナーの個性を抑え、職人に徹するプロ意識こそが重要であり、単純にゲームが好きなだけではできることではないのだ。

結果的に、それら全てが非常に上手くバランスが取れた完成度の高さこそがヒットに繋がった最大の要因と私は思うのである。

本当にこれが意図したものなのか偶然なのかは定かではない。
だが、ヒット商品というのは案外あまり奇をてらわず基本的なことをしっかりと押さえておく事が大事なのだと思わされる作品なのである。