デンキ屋が20年前に語りたかったゲームセンターの話

現在電気屋の筆者がゲーム業界にいた頃の体験から語るゲームセンターとアーケードゲームの話。基本的には当時の記憶が頼りなので多少の間違いは大目に見てください。

20年前に語りたかったアーケードゲームの話(5) ゲームバランス調整の難しさ

ゲームバランスの難しさ

長い前置きとなったが、プレイ時間が短くともプレイヤーを集中させる事で満足させることは充分可能だと思う。

勿論、それが簡単に出来るならば苦労はない訳で、ゲームバランスの優れたゲームを作り出すのは至難の業であるということも今まで語って来た通りである。

では過去のゲームでは実際どの様にしてバランスをとっていたのだろうか。
ブロック崩しやインベーダー等の初期のゲームによく見られたのは、プレイヤーの力量と時間に応じて徐々に難易度が上がっていくというスタイルである。
つまりブロックを崩していく毎に弾の速度が徐々に上がっていったり、インベーダーの数が減っていく毎に敵の進行が速くなっていくあれである。

スペースインベーダーをプレイした人なら経験はあると思うが、最初は余裕のあったものが、徐々に速度が上がり面の後半になると休む間もなくなっていき、自分の力量を超えて追い詰められた辺りでちょっとしたパニック状態というか興奮して集中する感覚はなかっただろうか?
そして面をクリアした瞬間、フッと気が抜ける開放感と達成感が更なる快感となったはずである。

この徐々に難易度が上がっていく、という所がポイントで、突然難しくなるとやられた不満感しか残らないが、力量に合わせて難しくなっていくことで自分の実力不足に納得し、そして悔しいからもう少し上達したい、という欲求に繋がるのだ。まさにプレイ時間と熱中度を両立させる優れたシステムである。

元々は容量的な問題から同じ様なパターンを繰り返すしか方法がなかった為にこのような形になったのだろうが、ゲームバランスとして考えれば初期にしてほぼ完成されたシステムであると言える。

ところが技術が進歩していくに従ってゲームのスタイルは大きく変わって行く。

ゼビウス」の登場である。

それまでほぼ真っ黒だった背景が地上を表現できる様になり、スクロールシューティングゲームとも言えるジャンルを作り出した。
そして飛来してくる敵機を迎撃しながら一定の距離を進み、ボスを倒して面クリアという、ある種のストーリー性が出来てくるのである。

この画期的なゲームスタイルはその後のゲームの主流となっていくが、逆にそれはゲームバランスの面では非常に難しいものにしてしまった。

スクロールが一定速度のままゲームが進行する為、初心者でも上級者でも1面あたりのプレイ時間は変わらない。
しかも難易度の上がり方は基本力量に関係なくほぼ一定である。

つまり、プレイ時間を難易度で調整しようとすると上級者に合わせようとすれば初心者にはかなりの難度となり、逆に初心者に合わせれば上級者は延々とプレイできるといったジレンマに陥ってしまうのである。

更には、スクロール速度が一定ということは、何度もプレイした上級者にしてみれば時間的な余裕が出来るのでパターン攻略がよりしやすくなるということになる。

これは「グラディウス」辺りからより顕著になり、バランスのとり方をより難しいものにしてしまった。

当時ゲーセンに通った人であれば1度は見たことがあるのではないだろうか。
上級者がグラディウスの1面の火山地帯の直前から自機とオプションを1か所に集めてレーザーで火山口から出る岩を一網打尽にする場面を。
その際にポジションを早めに決めて、後はジュースを飲みながらただボタンを押すだけのプレイヤーの姿を見て私はそのプレイ本当に面白いのか?と疑問に思ったものである。

シューティングゲームに限らず、アクションゲームや格闘ゲームでも面クリア毎に難易度が上がるシステムである限り調整の難しさは同様であり、ただシューティングゲームと比べて多少強引に難易度を上げても誤魔化しやすいだけである。

業界にいた当時、私はスクロール型ゲームの難易度でのプレイ時間調整は無理だと感じていた。
どれほど上手く調整したところでプレイヤーが上達していけばプレイ時間が延びるのは止められないので、結局全面クリアで強制的に終了するしか方法が無くなってしまうのだ。

私はゲームのシステムとして初期のゲームのような力量に応じてリアルタイムで難易度が上がっていくスタイルをスクロール型ゲームでも取り入れられないかと考えていた。

会社には新ゲームの提案制度があり、私自身もたまにアイデアを提案していたのだが、提案しようと考えていた中の一つにスクロール型のアクションゲームがあり、そのシステムとして考案したものがある。

それはプレイ時にノーミスの間、段階的に移動速度が上がっていく、というものだ。最初は通常の歩行で、徐々に早歩き、走り、ダッシュとなり、スクロール速度も移動に合わせて速くなる。逆にダメージを受けるとその都度移動速度が遅くなっていく、というものである。

動きが早くなれば操作が難しくなり難易度調整になるし、仮にそのままノーミスで進んでも1面のクリアタイムが短縮されるので、上手くいけば全面クリアしてもプレイ時間を節約出来る、という訳だ。
仮に全面クリアに通常30分かかるものが20分弱になるだけでも1日の稼働効率で考えれば結構なものであろう。しかもプレイヤー側としても力量に応じて細やかに難易度が変わるので上級者が序盤でだらける事も減る。

シューティングゲームでも応用は効くと思うのだが、自機の速度とスクロール速度が上がっていくだけでも時間短縮にはつながるであろう。

今となってはスクロール型のゲーム自体が絶滅危惧種となってしまったが、こんなシステムのゲームを一つ位見てみたいものである。