デンキ屋が20年前に語りたかったゲームセンターの話

現在電気屋の筆者がゲーム業界にいた頃の体験から語るゲームセンターとアーケードゲームの話。基本的には当時の記憶が頼りなので多少の間違いは大目に見てください。

業界を変えたゲーム達(1) 体感型ゲームの意義

業界の運営を変えたゲーム

ゲーム業界にとって、登場がきっかけとなりその後に強く影響を与えたゲームというものがいくつか存在する。それは体感ゲームであったり、メダルゲームであったり、クレーンゲームであったり、私が業界を去った後もプリクラの登場等があった。
いずれもゲーセンの運営の在り方を変えたゲーム達である。

体感ゲームはゲーセンのアミューズメントパーク化、つまりそれまでの暗いイメージでテーブルだらけのゲーセンから、手軽な遊園地感覚の明るいイメージを作るのに貢献した。
メダルゲームはカジノ的な雰囲気で大人の客層を呼び込むことで客単価の引上げに貢献し、クレーンゲームはそれまでビデオゲームにあまり接点の無かった親子連れや女性客に間口を拡げることで、子供から大人まで幅広い層に受け容れられる事に成功したのである。
それらはそれまでのテーブル型ビデオゲーム頼りから脱却し、ゲームセンターからアミューズメントスペースと言う健全な娯楽施設としてのイメージを定着させるのに大いに貢献したのである。


…とまあここまではゲーム業界を一般的な視点で語るとこんな感じになるのであろうか。
確かにここまで語った事は間違いではない。それまでの古いタイプのゲーセン脱却に貢献したのは確かだからだ。ただ、単純に体感ゲームが登場したから、メダルゲームが、クレーンゲームが登場したから業界が変わった訳ではない、と私は言いたい。

それらの登場はきっかけとはなったが、それらがブレイクし、雰囲気作りに貢献したのは、あくまでハードではなくソフト、つまり体感ゲームであればそのゲーム内容であり、メダルであればその店舗の運営努力であり、クレーンゲームであれば中に入れる景品の商品開発が業界を変えていったのである。

体感ゲームは果たして成功したのか

体感ゲームは当時ファミコンプレイステーションの台頭によるビデオゲームの衰退に対応すべく開発されたものだ。
普通のビデオゲームでは家庭用に客を取られてしまうため、ゲームセンターでしか遊ぶ事の出来ない大型の体感型筐体で差別化を図ろうという訳である。

その体感ゲームとして初めて登場したのが「ハングオン」(セガ)である。

さすがにこの筐体は現在稼働してないと思うので、現物を見たことがある人は少ないと思うがとにかく大きかった、というのが第一印象であった。
土台の上にまんまバイクが一台乗ったデザインで、バイクのメーター部分にあるモニターを見ながら、ハンドルを切る代わりに筐体を自力で傾けてコーナーを周るのである。本来はステップに足を掛けて体重移動で操作して欲しかったのであろうが、実際には足を踏ん張って強引にバイクを傾けて操作する人が殆どであった。

正直、そのプレイスタイルは滑稽であり、筐体としてはそれ程優れたものとは思えなかった。
だがやはり目を引く大型筐体である。いざ稼働してみると物珍しさもあり初期インカムは素晴らしかった。通常のゲームの4倍以上は稼ぎ、一般客を中心に皆でワイワイと遊んでいる姿は明らかに今までのゲームとは雰囲気の違うものであったのだ。
当時はテレビでも取り上げられ、これからのゲームということで話題になったものである。

ただ、売上に関しては体感ゲームだからという理由だけではけしてなかった。
勿論この筐体が一般客を集めたのは間違いない。稼働当初ワンプレイ200円だった事も高インカムの理由でもある。
だがこの「ハングオン」というゲームそのものが非常に完成度の高いゲームであった事が実は最大の理由であったと私は思うのだ。
シンプルな操作方法と絶妙なゲームバランス、そして耳に残る軽快なBGMが非常に良く出来ており、別に体感ゲームというカテゴリーでなくとも、充分に面白いゲームに仕上がっていたのである。体感ゲームとしての操作性の悪さも考慮し、難易度はやや低めに設定してあったのも一般客に受け入れやすい理由の一つとなっていた。

ハードではなくソフトが優れていた事はすぐに証明される事になる。
ワンプレイ200円の料金はやはり当時としては高額ですぐにインカムが落ちてき始めた。
更に操作が通常のハンドル式になったアップライトタイプの物が登場すると、皆操作性の良いそちらへ流れていった。
しかもインカム自体はアップライトだから落ちると言う事もなく、体感型と遜色無い安定した売上を維持したのである。

そうなると、通常の3台分程のスペースを使う大型の体感タイプはただのお荷物となってしまい、次第に店舗から消えて行くこととなる。

残念ながら業界初の体感型ゲーム「ハングオン」は体感型としては必ずしも成功とは言い難かった。だがゲームの質にも助けられて売上自体は良かった為に体感ゲームの可能性を業界に強く印象付けたのは確かである。

その後も「スペースハリアー」「アウトラン」「アフターバーナー」(いずれもセガ)と体感ゲームは完成度を更に高めながら度々登場し、高インカムと話題性をもたらした。
この3台に関しては筐体が可動する本格的なものであり、体感型というカテゴリーを確立したゲーム達だと言える。
ただこれもまた共通して言えるのは、ゲーム内容自体それぞれ名機と呼べる素晴らしい完成度であり、仮に体感型でなくとも高インカムを稼げる事は間違いない、ということだ。その上で可動する筐体という外見のインパクトと、可動する事でプレイに与える付加価値の付いた状態が体感型ゲーム人気の実態という訳である。

筐体の設置に必要なスペースと高額な本体価格を考えれば、費用対効果は通常のゲームに比べて突出して優れているとは言い難い。ただ、当時の地味な箱型のコクピット筐体と比べFRPを使用し派手に動く体感型筐体はそれまでの奥の壁際が定位置だったコクピット型ゲームを入口付近の目玉商品に押し上げ、ゲームセンターのレイアウトの幅を広げる事になる。
また体感ゲームハングオンに限らず、その殆どが一般層をターゲットにしており、その頃マニア向けに偏りがちだったアーケードゲームを再び客層を広げる事に大いに貢献したのである。
実はこの客層の間口を拡げるきっかけになったことこそ、体感ゲームが業界を変えた最大の功績だと思うのだ。
ここから、業界は一般層を更に引き込む為の新たな方策を模索し始める事になるのである。