デンキ屋が20年前に語りたかったゲームセンターの話

現在電気屋の筆者がゲーム業界にいた頃の体験から語るゲームセンターとアーケードゲームの話。基本的には当時の記憶が頼りなので多少の間違いは大目に見てください。

20年前に語りたかったアーケードゲームの話(8) ゲームミュージックの話 突然音楽性が変わったセガと職人技のタイトー

閑話 個人的に大好きなゲームミュージックの話(2)

閑話のつもりが随分長い話になってしまったが、個人的に好きなゲームミュージックについてもう少し語っておきたい。

ゲームミュージックが成熟していく過程で特に急激な進化を遂げたのはセガではなかったかと思う。

正直、80年代頭までこれといったヒット作も無かったセガだが、85年に体感ゲームハングオン」を発売してから突然、本当に何が起こったのかと思う位(まあ強力なバックアップが付いたからではあろうが)全てに於いて劇的な進化を遂げたのである。それに伴いゲーム音楽も音楽性が極端に変わり、まるでスタッフが全員入れ替わったのではなかろうかと思う位洗練されていった。
特に体感ゲームに使用された音楽は特殊筐体でステレオとなった利点を活かしてどれも単体の音楽として完成しており、抑えめながらもゲーム音楽としてのセオリーもしっかり押さえた優れものであった。

セガの音楽の特徴はバンド演奏を意識した曲作りである。当時の他メーカーの曲に比べると、ギターやドラムのサウンドにより重点がおかれているのがわかる。勿論、サウンドの中心はキーボードではあるものの、メインのメロディはボーカルを意識しているのか敢えて楽器をあまり変えずに流れているので非常に分かりやすい。
ハングオン」ではシンプルなメロディラインとリズムで疾走感を、「スペースハリアー」ではアクションシューティングゲームとしては若干軽いイメージではあるものの、軽快感と浮遊感を上手く表現していた。
アウトラン」では敢えてレースゲームらしくない音楽で正にドライブ中にラジオから流れる曲をイメージさせ、「アフターバーナー」ではやはり映画「トップガン」を意識したビートの効いたものになっていた。その後も「カルテット」や「ファンタジーゾーン」等の名曲を生み出す事になるのだ。

そして最後に、個人的には最もコンスタントにレベルの高い音楽を創り続けたのではないかと思うタイトーである。

初期の「スペースインベーダー」等の制約の多い頃から蓄積された経験による音作りは、どの時代のどのゲームにおいても完成度が高い。
やはり技術的にはナムココナミにやや遅れた感は否めないが、「エレベーターアクション」等、少ない音源を上手く使って特徴的なメロディを作っていた。

タイトーの音楽の特徴はなんと言ってもゲームに合わせて全く異なる曲調、メロディとなるバリエーションの豊富さだ。

どのメーカーもゲーム内容に合わせて曲調を寄せる事はあるものの、メーカー毎の“色”は強く出るし、特に音源となる楽器の構成は案外極端には変わらないものだ。
ところがタイトーの場合「アウターゾーン」ではSFらしい硬質な金管楽器、「スクランブルフォーメーション」では都会の空をイメージしたザラッとした音色のキーボード、「奇々怪々」や「影の伝説」では琴をイメージさせる弦楽器、「ラスタンサーガ」ではパイプオルガン中心のクラシック、「バブルボブル」「レインボーアイランド」では明るいファンタジー調の木琴と様々な楽器音源を有効に使い、全く違うサウンドを創り出しているのだ。しかも、音楽そのものはバラエティに富みながらも、ゲーム音楽としてのセオリーである特徴的なフレーズの繰り返しは必ず押さえてある。
更にはセガとは逆にドラム等の低音は多用せず、比較的クリアな高音域を多用している。
これは意図しているのかどうかは定かではないが、雑音の多いゲームセンターでは実に聴こえやすく耳に残りやすい音域なのだ。
あくまでも主役はゲームセンターのゲームであり、ゲームを活かす為の音楽である事をハッキリと意識した職人達の創ったゲームミュージックであると言えよう。

そして、タイトーを代表する音楽と言えばやはり「ダライアス」と「忍者ウォリアーズ」であろう。

元々「ダライアス」の採用された特殊筐体は3画面を使用した大型画面が売りなのだが、同時にボディソニックやステレオスピーカー、更にはボリューム付きのヘッドホン端子まで実装した音響効果に重点を置いた当時では珍しい筐体であった。
当然の様に「ダライアス」のサウンドは臨場感溢れる今までにないクオリティが要求されたのである。

それまでのBGMよりもセオリーの繰り返しはやや抑えめながら、しっかりとしたメロディラインとドラムの無い独特のキーボード中心のサウンドはステージ毎に特徴があり見事としか言い様が無い。

80年代の初期と言えばYMOに代表されるテクノポップが音楽ジャンルとして確立した頃であるが、「ダライアス」は最もその影響を受けているサウンドではないだろうか。まあそうやって考えてみると、YMOの「ライディーン」も特徴的なフレーズの繰り返しを多用しており、ある意味理想的なゲームミュージックの形をなしている。逆にもっと影響を受けたサウンドが他メーカーから出ていないのが不思議なくらいだ。

「忍者ウォリアーズ」では派手なアクションゲーム向けのアレンジに加え、本格的な津軽三味線の音色を取り入れ、和と洋の音楽の見事な融合を果たした傑作である。
今でこそ和楽器バンドの登場で世間的に認知されているが、洋楽に最も遠い和のテイストである三味線を取り入れ、しかも完全オリジナルのサウンドというのは当時では相当珍しかったのではないだろうか。

もう一つ、タイトーの音へのこだわりが感じられるのはデモ画面専用サウンドの存在である。
少しマニアックな話だが「メタルソルジャーアイザックⅡ」というゲームには、デモ画面専用の音楽が設定されていたのである。
通常デモ画面、つまり誰もプレイしていない時には音無しか、あってもデモプレイ音、もしくはゲーム中のBGMが流れる程度である。まだまだハードの制約の多い頃、わざわざデモ画面専用のサウンドを作ったのは恐らくタイトーが最初ではないだろうか。

残念ながらゲーム自体がマイナーな上、設定で音無しにできる為に実際に聴く事が出来た人は皆無であったと思う。
私の店舗では勿論デモサウンドを流していたが、当時はデモだけでしか聴けないサウンドで終わらすには非常に勿体無いクオリティだと思っていたものだ。
数年後、その曲は「ダライアス」のBGM「CAPTAIN NEO 」として復活していた。当時のものとほぼそのままのアレンジである事でもそのクオリティの高さが伺えるというものである。

以降もデモ画面に専用のサウンドを流して演出したゲームは度々登場する。「忍者ウォリアーズ」でのタイトルバックにも専用サウンドが流れていたし、「ソニックブラストマン」でのナレーション付のサウンドも味があって良かった。
中でも私が最も印象に残っていたのはこれまた少し古いが「オペレーションウルフ」であろうか。
映画「コマンドー」や「ランボー」を彷彿とさせる様なデモ画面とタイトルのバックに流れる曲はさながら映画のプロローグや予告編を見る様であった。当時のハード事情では画面的にそれ程派手な演出は出来なかったので、それをサウンドで実に上手く補っていたのである。

本当はまだ他のゲームやメーカーのサウンドについて語りたい所ではあるが、今回はここまでとしてまた別の機会に語りたいと思う。