デンキ屋が20年前に語りたかったゲームセンターの話

現在電気屋の筆者がゲーム業界にいた頃の体験から語るゲームセンターとアーケードゲームの話。基本的には当時の記憶が頼りなので多少の間違いは大目に見てください。

20年前に語りたかったアーケードゲームの話(2) 売上を上げるゲームの条件

売上を左右する要素

前回、私の考えるアーケードゲームにおける「名機」とは、独自性、持続性、希少性等の絶妙なバランスによって、結果として爆発的、又は数カ月に渡る安定的なインカムを稼ぐことの出来たゲームである、とした。

そう、「結果として」だ。

メーカーはインカムを稼げるゲーム を創り出す為に様々なジャンルで試行錯誤しながら新たなゲームを次々と世に送り出していたが、それでも名機と呼べる程に稼げたゲームは私が業界にいた頃でも年に数えるほどしかなかった。
つまり、それだけインカムを稼ぐゲームを創造するのは難しいということだ。

少し話は逸れるが、私はテストロケーションの担当をしていた時期があった。
テストロケとは、自社の試作品や他社の新製品の導入の検討をする為に、試験的に設置して売上のデータをとる店舗のことである。
そして担当の私はテストマシンについて既存のゲームとの売上比較、主な客層、プレイヤーの傾向、満足度、プレイ時間やリプレイの度合い等を調査し、評価を行っていたのである。
なかなかに面倒な作業ではあったがやり甲斐はあったし、そのお陰でゲームを見る目は大分養われたと思う。
そして様々なゲームを見る内に、インカムを上げるために必要な要素や売れるセオリーのようなもの、傾向はある程度掴めてはきたものの、結局は売上を上げる絶対的な条件というものは存在しない、という結論に達してしまったのである。
ポイントを押さえてあっても売れないゲームは多数あったし、逆にひとつひとつの要素は大したことがなくても、意外に売れたゲームも存在した。言ってみれば様々な要素が絶妙に絡み合い、見事なバランスがとれた時に初めて名機となるのであって、そうそう狙って出来るものではない、ということだ。

まあそれで話が終わってしまってはつまらないので、とりあえず名機には大抵あった優れた要素、つまり前回挙げた独自性、持続性、希少性の3つについてもう少し私の経験から思った事を語っておこう。

まずは独自性についてだが、画面や音楽、特殊な操作性や体感ゲーム等の特殊筐体、今までに無いゲームシステム等、他との差別化に必要な部分で、これが突出しているほど注目度、アピール度が増す。
仮にそれ程特殊な部分が無くとも、ゲームシステムに若干アレンジを加える程度の目新しさだとしても画面やサウンドである程度カバーは出来る。
まずはプレイヤーを惹きつけ、最初にコインを入れるきっかけとして大きな役割を持つのがこの要素である。
ただ、確かに必要ではあるし、殆どの人がゲームの売りと言えばこの独自性に関する部分だと答えるだろう。しかし私自身はこの部分について実はそれ程重要視してはいない。
美しい画面構成や目新しさ自体は新製品であれば当然ある訳で、また目新しい部分は見慣れてしまえばすぐに魅力は半減してしまうからだ。
そういうアイデアや作り手の思い入れだけで勝負しようとするゲームは実に多いが、それだけではすぐに売上は落ちていくだろう。

ただ、これが重要な要素になる場合も確かにある。
アルカノイド」(タイトー)がいい例であろう。
言うまでもなくこれはブロック崩しのリメイクであるが、基本的な内容はそのままであるにも関わらず半年以上に渡る高インカムを記録した間違いなく名機と呼べるゲームである。
はっきり言ってしまえば、見た目がきれいな以外にこれといったシステムの変化は殆ど無いと言っても良いだろう。パワーアップアイテム等はあくまでも付け足しであり、ほぼそのままクリンアップしたにすぎないゲームである。にも関わらず名機となった理由の一つは間違いなく画面が美しくリニューアルされた事が大きかった。
アルカノイドが成功した理由については他にも色々な要素が重なった結果ではあるのだが、それはまた別の機会に詳しく書きたいと思う。

次に持続性についてだが、これは操作に対する反応や難易度の調整、面の構成等、プレイヤーを飽きさせず、もうワンコインを投入させるための要素である。
制作側の技術やセンス、練り込み度合いが問われる部分で、ゲームにとって最も重要な要素でありながらあまり注目されておらず、また名機がなかなか生まれにくい原因でもある。
というのも、この部分はこれといって確立された技術ではなく、企画書ではなかなか表現出来ない部分でもあるからだ。

アーケードゲームにおいてインカムを稼ぎ続けるのは非常に難しい。

とりあえず購入してもらえば成功のコンシューマゲームとは異なり、何度もプレイしてもらう必要のあるアーケードゲームではプレイ時間やワンプレイで得られる満足度のバランスを取るのが非常に重要でかつ難しいのだ。
前回も書いた通り1回のプレイ時間が長過ぎては売上にならないし、短いプレイ時間でもある程度は満足度がなければいけない。そうかと言って充分に満足感を得られてしまうと今度は再度のコイン投入に繋がらない。
プレイ後、結果に対してわずかに不満を感じる位の絶妙さが必要なのである。
一般にプレイ時間の目安は長くても3分前後とされていた。そして初心者でも少し頑張れば1面はクリア出来るようにするのがセオリーだった。
多くのゲームはそれを難易度で調整しようとして失敗していたものだ。
難易度調整は最後の微調整程度にすべきで、本来は残機設定等のシステムやステージ構成等、ゲーム企画時から意識しておくべきなのである。

バランス調整が難しい例をひとつ上げるとすれば「魔界村」(カプコン)だろうか。

こちらはあまり長期間は保たなかったものの、初期はかなりのインカムを稼いでいた。ゲーム自体の質も高くこれも名機と呼んでいいだろう。
このゲームの特徴のひとつとして、敵の攻撃を受けるとまず鎧が壊れ、更に攻撃を受けることで残機が減るシステムになっている。つまり事実上残機が倍あることになるのだ。
このシステムそのものはアクションゲームではそう珍しいものではないが、実質シューティングゲームに近い魔界村では、キャラが小さくなかなか敵の攻撃が当たらない所に問題があった。
その上更に残機が倍あるのだから普通の難易度ではプレイ時間が長くなり過ぎてしまうのは当然であろう。
その為、プレイ時間調整でそれなりに難易度を上げる必要があったのだ。
しかも1回死ぬとかなり前に戻されるので、なかなか前に進めないという印象があった筈である。少なくとも一般のプレイヤーにとってはかなり難しい印象であったはずで、1面辺りで早々に攻略を諦めるプレイヤーも結構多かったのではないだろうか。

実は1回のプレイ時間そのものはそれなりに長かったので、バランスそのものが悪い訳ではないはずなのに次に進みたいと思う意識が削がれてしまったのは実に勿体なかったなと思うのだ。

最後に希少性であるが、これは例えば見た目が地味であまり多くの店舗に設置されなかったり、大型の筐体で設置する店舗が限られていたり、特殊なコンパネ(操作部、通常はレバーやボタンの事)を使用していて、メンテナンスの都合で段々数が減ったり等の理由であまり出回っていないゲームがこれに当たる。
これは殆ど外的要因で、制作者サイドからはどうしようもないことではあるのだが、意外にこの要素は馬鹿にできない。
絶対数が少ないのだから当然1台当りのインカムは上がる訳で、そこそこ安定したインカムを稼ぐ場合があるのだ。
また、他の店舗ではプレイすることが出来ない事から、そのゲーム目的に来店する客も期待出来るのである。
他にも、例えばメーカー直営店の場合だと当然そのメーカーのゲームは多く設置する。そうやってカラーを強く打ち出す事も出来る訳だが、中にはあまり売上が良くなく他の店舗では見られない迷機もカルトなファンを集める武器となりうるのである。
つまり、そのゲーム自体では稼げなくとも、集客に使えるタイプのゲームもあるということだ。(もちろん、メーカー側もわざわざその為に迷機を作る訳ではないだろうが)

これもひとつ例を上げておこう。
「忍者ウォリアーズ」(タイトー)である。
ダライアス」(タイトー)の3画面筐体を使った横スクロールアクションゲームであるが、実際にプレイ出来た人はどの位いるのだろうか。
元々、3画面という大型でかなり特殊な筐体という事で設置数そのものもかなり限られていたし、最初のダライアスが期待程にはインカムが上がらなかったためか、タイトー系の店舗以外では殆ど見る事がなかった。
初稼働当時もダライアスに比べればそれ程話題にも登らなかったし、ゲームミュージックだけがやたらに評判だった記憶がある。
だが実際に稼働してみると、元々の出来そのものが一般向けで入りやすい作りというのもあったが、かなりの長期間高インカムを記録し続けていた。
実はこの筐体、形やモニターの関係で周りのギャラリーがプレイ画面を見づらい為に新製品としてのアピールがし難いという致命的な欠点があった。それらの事も含めて地味でかなり不遇なゲームだったと思うのだが逆に希少性は高く、設置した店舗にしてみれば予想以上に稼げた名機だったのではないだろうか。
勿論、忍者ウォリアーズ自体の出来についても評価すべきであり、個人的には大好きなゲームでもあるので、これについても別の機会に是非改めて語りたい。